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3度目になる異形の怪獣の襲来。真田達がコックピットに招聘された頃には、既に他のメンバーは皆チェシャ猫によって集められており、街は戦乱の恐怖に再度の大混乱に陥っていた。街の中央、巨大な円柱の姿で佇む次なる敵性怪獣。柳が名付けたコードネームは“ドラム”、前回のバヨネットと違い明確な手足も見当たらず、核の位置さえ想像が付かない。 敵の奇態に戸惑うレギュラーメンバーの目の前で、しかしドラムは突如横倒しになり、足下の住宅街を転がり押し潰し始める。―――明確な敵意。轟音を立て、瞬きの内に在りし日の姿を失う、見慣れていたはずの街並み。コックピットのスクリーンには、足下で避難の間に合わなかった住民達が、恐慌して逃げ惑う姿が映し出されていたのに―――。 「貴様あああぁ!!!」 激昂し、飛び出したのは真田だった。パイロットである真田の意思に応じ、ドラムに体当たりして殺戮の回転を止めたジアースは、真田の精神力と気迫に呼応し、怪力を見せる。ジアースの力に圧され、次第に後退を始めるドラム。しかし回転を抑え込む一方ではジアースに勝機はなく、いずれ疲弊し力負けする機体を、ドラムが上回ってしまうに違いない。膠着状態となった戦局を、ドラムは機甲を鋸状に変態させ、抑え込むジアースの装甲をも削り取る事で優勢を取り戻し始める。腕を削り落とされ、とうとう衝撃と回転に圧されて倒れ込むジアース。ドラムはその機体の上に乗り上げ、街とジアースの核を守る装甲を次々破壊し始める。耳をつんざく轟音と、振動に削られて激しく揺さぶられるコックピット。メンバー達は椅子から振り落とされ、めいめい壁や床に叩き付けられてしまう。 同様に操縦席から叩き落とされた真田は、しかし起き上がった先で信じられないものを見る―――ドラムの次なる破壊の標的が、彼らの愛した立海大附属のテニスコートに移ろうとしていたのだ。 「そこは…そこだけは、駄目だぁ!!」 咄嗟に跳ね起き、咆哮を上げる真田に呼応し、再びドラムに突っ込んでいくジアース。機体はドラムの鋸がコートを削り潰す一瞬前に滑り込み、戦況は再び膠着する。嫌な音を立て、削られていくジアースの装甲。バカな奴、と失笑するチェシャ猫以外に、しかし真田を笑う者は誰もいなかった。気力を磨耗し、汗を滴らせながらも、テニスコートを守ろうとする真田の背中が語る“何か”―――孤軍奮闘する真田を見つめるメンバーには、そのすべてがまるであの終わってしまった夏、そのもののように映っていた。たとえ自分はもうそこでテニスが出来なくても、彼がその場所を守りたいのはそんな理由じゃない。もっと眩しくて鮮やかで、胸をしめつけて離さないような―――例えるなら今はもう沈んでしまった、あの日の太陽のような。 「副部長…」 真田の名を呼びながら泣きじゃくって顔を伏せる赤也、呆然と真田を見つめるまなざしから、ぽろりと涙を落とす丸井。柳も柳生も仁王も、誰も何も言おうとしない。立ち上がり、口を開いたのは幸村だけだった。表情は変わらない。涼しげなまなざしのまま、苦闘する操縦席の真田の肩に触れ、彼はたった一言だけを呟く。 「真田―――頼む」 それは彼が病に倒れ、立海を去らなければならなかったその時に、ベッドの上から真田に託した言葉と同じものだった。その言葉に呼応するように、ジアースが動く。削られ、傷だらけになった装甲の腕で、回転するドラムの体を抱え上げたのだ。抵抗するドラムの回転は尚もジアースの外郭を削るが、不思議とその衝撃は抑え込まれ、次第に弱まり始める。「弦一郎の意思に呼応して、ジアースが力を増しているんだ…」ぽつりと呟く柳。真田はそのまま建物や避難民を避け、ドラムを横浜港へと運ぶ―――思い切り、反撃に出るために。 海面に投げ出されたドラムを、ジアースの残った腕が真田のイメージに応じ、空を一閃する。キン、とガラスを鳴らしたような音を立て、中央から真っ二つに割れるドラム。その分断された機体からは、半分だけになった核の姿も覗いた。光が瞬き、ドラムは消える。影も形もなく、まるですべてが夢だったかのように。―――真田の勝利だ。眼下に広がる景色が夢でないことを証明する、抗いようのない真実はただひとつ。 「チェシャ猫。俺が死んだら俺の死体はどうなる」 「どうも何も、てめーの家に転送するのが基本だろ。死因不明の死体がひとつ増えても誰も驚かねえし、桑原の時もそうした」 「そうか。では、お前に頼む。俺が死んだらすぐに、俺の死体をお前の力で二度と戻る事のない場所へ送ってはくれないか」 母を悲しませたくはない。淡々と願う真田に、チェシャ猫は望むなら遺体をジアースの“隙間”に隠す事ができる事を話し、真田はそれに頷く。何を言ってるんだ、と、乾いた笑い声を上げたのは丸井だった。立ち上がる。 「何、言ってんだよ。何認めてんだよ!!そんなもん――そんなん冗談に決まってんだろ!!お前みたいな殺しても死にそうにねえ奴が、死ぬわけねえだろうが!!嘘だって―――嘘だって言えぇ!!」 悲痛な叫び声をあげる丸井に、真田は凪いだ表情で、「すまない」、とこたえる。気圧されたように肩を揺らした丸井は、「ちがう、俺は、お前に謝って欲しいんじゃない。謝って欲しいんじゃねえよ……」力なくつぶやいて頭を垂れる。「副部長!副部長…!!」泣きじゃくりながら真田の肩にすがる赤也に、「俺はもう副部長ではない。赤也」とかすかに笑って、その頭を撫ぜる真田。彼は無表情で佇む柳、やるせなく眉間に皺を寄せる柳生、俯いて決して目を合わせようとしない仁王、呆然自失したまま泣き続ける丸井を順に見つめ、最後に幸村を見た。幸村は笑わない。泣きもしないし、怒りもしない。その凍り付いた静謐な表情に苦笑した真田は、 「お前に返すぞ。立海を」 ―――そう告げると同時に、姿を消した。まるですべてがはじめから夢だったかのように、圧倒的な空白を残して。夢じゃない証は、たったひとつ、空っぽになった色褪せたベンチだけ。 「――真田」 こぼれ出た、誰のものとも知れない声に、返るこたえはない。ぼくらの世界の夜明けまで、あと、6人。 (to be continued…) |