「まもる」










丸井が、涙を流した。それは残された5人にとってはひどく鮮明な、丸井ブン太という少年の中で「動き出した」時間の表れだった。赤也と幸村を残し、無言で教室を出ていく丸井。廊下には、いつから事の顛末を見ていたものか、ひとり仁王も佇んでいた。目が遇う前に視線を伏せる仁王の側を、やはり黙して通り過ぎる丸井。かけられる声は何もない。彼が朋友たちの喪失――死を受け入れる事が、彼の救いになるのか絶望になるのかは、残された5人には、残されたからこそ、逆に理解することができなかった。真田対ドラム戦のあと、回った次なるパイロットルーレットは、――因果な事に、丸井こそを指し示していたからである。




















その夜、丸井はひとり、自室にチェシャ猫を呼び出す。ゲームが展開されている間であれば、たとえ戦闘中でなくても、パイロットは呼び掛けひとつで、ゲームの監督者であるチェシャ猫を招聘する事が出来るのだ。丸井がチェシャ猫を呼んだのは、チェシャ猫が持つ空間転移の力で、行きたい場所があったからだった。東京都内にある、小さなテニスコート。真夜中にひとり、けれど賑やかしくかしましく、楽しげにラケットを振るう少年に会うために。

「あれ、丸井くん?」

コートで丸井を待っていたのは、氷帝学園の芥川慈郎だった。と言うよりは、芥川のもとを丸井が一方的に訪ねたとするのが正しい。ふたりに、今夜ここで会おう、という約束はなかった。ただ、天才的なボレーヤーである丸井の熱狂的ファンを自称する芥川が、かねてより再三、このテニスコートで丸井のボレーを見せてほしい、夜はいつもそこで打ってるから、と口を酸っぱくして丸井にせがんでいたのである。住宅街のなか、小さくひなびたそのクレーコートには、いくつものボールのあとが残っていた。
「よう、近くまで来たからさ」、と笑いかける丸井に、体全体で喜ぶ芥川。ようやくかなった丸井の来訪、芥川は丸井にラケットを渡し、綱渡り、鉄柱当て、時間差地獄――大好きなボレー技の数々を見せてほしいとせがみこむ。仕方ねえな、と笑いながら、丸井は言われるまま、常通りの正確なコントロールで妙技を次々披露して見せる。芥川はそれらひとつひとつに、飛び上がって喜び手をたたいた。無邪気なこどものように。芥川が、桑原の死、真田の失踪を知らないはずもなかったが、彼はひとこともそのことについて触れようとしなかった。転がったボールを拾い集めながら、「じゃあ次はねえ、」と至極楽しげに続けようとする芥川の言葉をさえぎるように、丸井は声をかける。

「なあ、芥川」
「ん〜?」
「お前さ、俺のことかっこいいって思うか?」

丸井の問い掛けに、芥川は振り向いた。そして、間髪入れずに大きく頷く。嘘も誤魔化しも何もない、率直で真剣な顔だった。

「うん」
「俺、テニス以外は、わりと余裕ねえ時もあるんだぜい。お前は知らねーだろうけどさ。それでも?」
「…う〜ん?難しいことはよくわかんねえけどお、でも、やっぱ丸井くんはカッコEよ。俺にできないこといっぱいできるしさあ、なんつーの、えいゆー?ヒーロー?あ、正義の味方!」
「…なんだそりゃ。俺はウルトラマンじゃねーっつの」

ぼやく丸井に、芥川はニッカリと歯を見せて笑い、転がったボールを拾い上げては必死に鉄柱当てや綱渡りを真似しようと、コートの中でくるくる身をひるがえす。日曜日、朝8時。テレビの前にかじりついて、ヒーローのその姿を懸命に追う小さな子どもにも似たその背中に、丸井は一瞬黙ってから、呼びかけた。

「なあ、芥川」
「ん!」

芥川の背中に、丸井はその名を呼びかける。穏やかな、あったかい、少し苦笑いにも似た、いろいろなものの入り交じった笑顔で。






















「ありがとな」
























芥川は振りかえる。けれど、先ほどまで立っていたはずのすぐ後ろに、丸井はもういない。タン、タン、と、打ちかけたボールがクレーを弾んで転がった。


「―――まるいくん」


答える声は、すでにそこにはなかった。


























次なる、敵性怪獣が現れた。市街地の中央。丸井が芥川のもとから呼び出されたコックピットの中には、既に他の5人も揃っている。みな物言いたげに、けれどうつむいて。待たせた、と言いながら、彼らの真ん中を抜けて、丸井は迷わずパイロットの椅子に腰かけた。背板に派手な引っ掻き傷の残った、教室の椅子。ジャッカルと初めて出会ったときに腰掛けていた、そのものの椅子。

「戦えるのか」

端的に、操縦席に腰掛けた丸井の背中に尋ねる幸村。丸井は頷いた。振り返らないままに。


「うん。決めたから」


丸井の簡潔な言葉と同時に、対していた敵性怪獣が動き出す。今度の敵性怪獣の形状は、本体と思しき頑強な体躯に、蜘蛛のような4本の奇抜な足が伸びた、おぞましい機体だった。この怪獣に、柳は「アラクネ」と名をつける。ギリシャ神話における、神の怒りを買って蜘蛛におとされた女神、をあらわすその名は、機体を見ただけではどんな動きに出るのか想像もつかない不気味さと、それに伴った当惑をも醸し出していた。

「それでも、やるしかねーだろい」

まずは、戦闘に入る前に、出来うる限りの市民の避難時間を確保しなければ。足元を逃げまどう民衆に、願うなら少しの被害も出したくはない。どうにか膠着状態を保持するすべはないか、と考えるメンバーたちの前に、アラクネが動いた。まるで、彼らの心をよんだかのように、機体はそのまま市街地を抜け、人の少ない海浜部へと後退を始めたのである。一切の攻撃も加えず、さも民衆の避難を待ってくれているかのような敵の動きに、驚く丸井たち。敵の本意をチェシャ猫に尋ねるも、かえってくるのはのらくらとした返答ばかりだ。

「罠ではないのですか」

低い声で、敵のトラップの可能性を示唆する柳生。今までの戦闘で対峙した敵性怪獣たちは、そのどれもが市街地や民衆のことなど目にもくれない戦い方ばかりを展開してきただけに、彼の危惧ももっともだった。厳しい表情で、ジアースの進退を決めかねるメンバーに、しかし丸井ははっきりとした声で、「いいや、あっちの示したフィールドで戦おうぜ」、と呼びかける。

「しかし、」
「どっちにしろ、このままじゃここで戦えねえだろい。あっちが動かなきゃ俺たちが同じことをしてたんだ。今更どうするもこうするもねえよ」

虎穴に入らずんば虎児を得ず、っていうしな、と、苦笑する丸井。彼の意志に呼応して、ジアースはアラクネのあとを追うように、海浜部へと移動を始める。先に海浜部に到着していたアラクネは、ジアースの訪れるのをじっと待っていた。本当に、猶予を与えてくれるかのような、空白の時間。
やがて、海上で互いに対峙する2機。アラクネが動いた。ずんぐりとした本体から伸びた、不気味な4本の足が、その体躯に見合わない迅速な動きで、突如バラバラにジアースに向けて攻撃を仕掛けてくる。紙一重で避けるも、不規則な攻撃パターンで襲ってくるアラクネに、苦戦を強いられる丸井。鋭い足の攻撃に、ジアースは腕を1本切り落とされてしまう。
だが丸井は機転を利かし、その切り落とされて落ちた足を掴み、逆に敵の機体に投擲することで動きを止める。不規則に攻撃を仕掛けてきていたアラクネが沈黙する。「核だ」、チェシャ猫が笑う。「核を破壊しないかぎり、勝負はまだついていないぜ。」



そこへ、突如轟音を立て、空自のものと思しき戦闘機が4機、上空に現れる。ジャッカル戦の時と同様、様子を伺うように旋回を続ける機体。かつての状況を鑑みるに、地上の武器や戦闘機はこれらの戦闘に何の影響力をも持たないはずだが、はたしてどう出るのか。息をつめる丸井の横で、「おかしい」、と、ふいに柳が低い声で呟く。

「え?」
「おかしい。あんな機体は、現代日本の戦闘機では見たことがない」

彼の言葉が終わるかいなか、突如4機がミサイル弾を発射した。――確実に、ジアース「だけ」をめがけて。衝撃を受けて、ドドン、とコックピットが振動する。椅子から振り落とされないよう、めいめいが背もたれに掴まって衝撃をやり過ごそうとする中、しかし戦闘機から発射されるミサイル弾は後を絶たない。けれど、その攻撃のどれもが、やはり確実に「ジアースだけ」を狙っているということに、6人に動揺が走る。

「いったいどういうことなんだよ、チェシャ猫!」
「まあそう吠えるなって。向こうさんも必死なのさ」
「向こうさんとは」

幸村が静かに問いかける。


「向こうさんとは、どこのことなんだい?」


問いかけの間にも、ミサイル弾が利かないと知るやいなや、次々と戦闘機自体がジアースに向けて特攻を始める。機体にぶつかると同時に、真っ赤に燃える炎となって粉々に砕けて落ちてゆく鉄のかけらたち。その中には確かに、「操縦者」であるべき人間が乗っていたはずで――

「まるで神風特攻隊だな」

ぽつりとつぶやく柳。「ああ、カミカゼのつもりなんだろ」、と、チェシャ猫がその言葉を継いだ。

「カミカゼのつもりなのさ。向こうの奴らにとってはな」
「だから、その向こうのやつらってのは何なんだよ!!」
「地球だよ。お前たちの地球とは別の存在のな」

チェシャ猫の言葉はそっけなく、端的だった。「別?」と、柳生が首をかしげる。

「別とは、どういうことです」
「正確に言えば、時間と空間が枝分かれした地球。つまり、別の未来の地球だ。宇宙に無限の星が存在するように、人間の把握しない範囲で、時間や空間にも無限の存在がある。そのひとつがここだ」
「全然わかんねーよ!!」
「当たり前だろ、わからねえように言ってんだ。まあ要は、パラレルワールドの一種、って言えばお前の足りねえオツムでもわかるか、ああん?」

咆哮した赤也を馬鹿にするように、チェシャ猫がその椅子の周囲をちょろちょろと動き回る。「このっ…!!」と激昂しかけた赤也を、隣の席に座る柳の腕が諌めた。

「なぜ、俺たちがそのパラレルワールドの地球に来る必要があるんだ?」
「俺たち案内人は、ホームゲームとアウェーゲームと呼んでるがな。この地球はアウェー、お前らの地球に似てるが違う場所で、つまりこの戦いはアウェー戦ってことさ。まあパラレルワールドといっても、途中までは同じ未来を歩んだり、もとは一緒の世界だ。パッと見ただけでは見分けはつかないかもしれねーが、やはり違う世界だ。あのカミカゼの戦闘機のように、お前らのホームにはないものも少なからず存在するってことだな」
「つまり俺たちは、パラレルワールドの地球と戦ってるってことなのか?」

一同から、誰からともなくかわいた笑い声がもれる。「地球、対、地球。そんな話、聞いたこともねえよ」


「俺たちがいちばん考えなければならないのは」


幸村が口を開く。にやにやと、笑顔だけが宙に浮いているようなチェシャ猫に向かい、彼は淡々と尋ねかけた。


「アラクネ。あちらのロボットにも、俺たちと同じ、人間が乗っているということなんだな。このアウェーの地球に属する、アウェーのために戦うアウェーのパイロットたちが」


幸村の言葉に、一同に動揺が走る。チェシャ猫が哄笑した。

「ザッツライト!!その通りさ。お前たちお気楽なもんだぜ。桑原の時も、真田の時も、現れた敵性怪獣にはみんなパイロットが乗っていた。あのふたりは幸せだな、自分たちが人殺しだと知らずに済んだんだ!」
「てめえ!!」
「何を怒る?お前たちが生き延びたいと思うなら、やらなきゃいけないことは一緒だぜ。ホーム戦だろうがアウェー戦だろうが、これはその地球の存在を賭けた戦いなんだ。お前らが負ければ、お前らの地球が消える。向こうが負ければ、向こうの地球が消える。わかりやすくていいルールじゃねえか」
「一体何のために、俺たちがそんなことをしなきゃならねえんだよ!」

赤也の咆哮に、チェシャ猫は短く「剪定」、とこたえる。

「植木の剪定と同じようなものさ。時空の剪定、可能性の淘汰。宇宙は無限だが、のびた雑草をそのままにしておけば統制が取れなくなる。そういった危惧をなくすために、なるべく近い未来の地球同士でぶつけて戦わせ、弱い方を消すのさ。それがこのゲームの仕組み、弱肉強食。実にシンプルだろ」
「弱い方を消すって…つまりどの程度の話なんだよ…」
「そうだなあ。その地球に属する時空が丸ごと消えるわけだから、まあザッと60億の人間がポン、だな。けどまあ、救いなのは、消えたと実感するまでもなく白紙になるところだ。痛みも苦しみもねえ。だからって、勝った方が60億の人殺しってことに変わりはねえけどな」

ケタケタと、チェシャ猫が笑う。「黙れよテメエ!!」殴りかかろうと立ち上がった赤也を、「うるせえ!!」と叫んで止めたのは丸井だった。ビタッと動きを止めた赤也が、わなわなと唇をふるわせ、黙りこむ。

「丸井先輩…」
「…この地球は、俺たちの地球とは違う。この地球には俺たちの立海も、俺たちの家族も、俺たちがいたって痕跡もない。俺たちの地球を守るために、俺たちのすることはひとつしかないんだ。…そういうことだろい」
「丸井、」

今まで黙っていた仁王が口を開いた。けれど、何も言わずに黙りこむ。丸井は俯いていた。前髪に隠れて、表情が見えない。丸井以外の他の5人も、一様に俯いて黙った。チェシャ猫だけが愉快そうに軽やかに身を躍らせる。

「丸井、てめえはものわかりがいいぜ。決めたんだったら、さっさとあのオモチャの中の核を破壊しな。正確には、核――コックピットに乗ってるこのゲームの敵性パイロットを殺せ。このゲームの勝利条件はそれだ」
「パイロットを…」
「そうだ、殺すんだ。言っとくが、ホーム戦だろうがアウェー戦だろうが、負ければ即座にお前らの地球がポン、だぜ。ただ闘技場が違うってだけで、結末や目的には何の変わりもねえ。守りたいなら、無駄に死にたくねえなら、戦いな」

話の間にも、動きの止まっていたアラクネが、徐々に回復を始める。丸井と敵機の挙動を息をつめて見守るパイロットたちの中で、長くも短くもある沈黙のあと、丸井は短く呟いた。


「俺は、やる」


余計な説明の混ざらない、けれどだからこそ強く深みのある、決意の言葉。「それで正解だぜえ!!」と哄笑をあげてぐるぐると走り回るチェシャ猫の声を遠くに、丸井の脳裏には、ジアース搭乗直前、芥川の邪気のない素直な言葉が、あかるく、きつ然と存在感を持って輝いていた。ヒーローなんだ。俺にとって丸井君は、ヒーロー。正義の味方!

どんな戦隊もののアニメにも、漫画にも、映画にだって、ヒーローは存在する。ヒーローは彼らの存在する世界を守るために、無力で弱い人々を掬い上げ、理解し、守り、襲い来る敵を淘汰する。勧善懲悪のその世界に、敵の世界は描かれない。自分たちの世界を守ろうとする正義と、同じ正義がぶつかるべきではないからだ。ヒーローはそこに疑問を抱かず、守られた人々は英雄を英雄と讃えて彼らの正義を疑わない。疑うべきではない。だってそうでなければ勝利に正当な理由が求められないからだ。仮にヒーローが己の道に迷いを抱いたとしても、それは崇拝者たちの目にさらされるべきものではない。英雄が迷えば、人もまた迷う。だからヒーローの戸惑いや恐怖、哀惜、悔恨、追悼の思いのすべては、


(舞台裏、ってやつか)


はあ、と、本当に、なんでもない日常の風景のように、しかたなさそうなためいきをひとつつき――同時に鈍い音を立てて動き始めるアラクネに向かい、丸井は容赦なく、残ったもう一本の腕を突きたてた。今度こそ、アラクネは機動を停止する。丸井はそのまま、全く迷うこともなく、ジアースの腕でアラクネの中央部分の装甲を引き剥がした。刃先を突っ込み、中にひそむちっぽけな、白いつぼみのような核を取りだし、淡々とその表皮を破り捨てる。覗いた核の中には、同じように並んだ9つの椅子と、まっすぐな目でジアースを見上げて座る、精悍な若者が座っていた。ほんとうに、まったく、丸井たちの知る人間と変わりのない姿。残っているパイロットはごく数名、アラクネもまた、激戦を勝ち進み、英雄としての選択をし続けてきた、心を持った存在であったのだ。

ふと横を見ると、ぼろぼろに荒れ果てた湾岸部に、無数の小さな人々の姿がある。避難したはずだったのではなかったのか。見下ろすと、人々のだれもがプラカードを掲げて立っている。わたしたちの地球を消さないで。殺さないで。わたしたちは、生きたい。

わたしたちは、生きたい。













丸井はもう一度、ため息をついた。あーあ、なんでこんなことになっちまったんだかなあ、なあ、ジャッカル。全く損な役回りだよ、これだけ人間がいて何で俺たちが選ばれた?俺はさ、いや、たぶん他の奴らも、このゲームに不条理や理不尽しか感じてない。神さまってのがいるなら大いに憎むぜ。
けど、たったひとつだけ、神さまがいるなら、俺は感謝したいことがある。ジャッカル。なあ、お前がこのことを知らなくてよかったよ。こんなこと、俺だから出来るんだ。俺じゃなきゃ出来ない。お前にやらせてたら、お前、きっと世界で一番苦しんだもんな。天才で、かっこよくて、ヒーローの俺にしか、こんなことは出来ねーよ。

丸井は笑った。くちびるはふるえていたし、顔色は白かったけれど、テニスコートで妙技を披露するときと同じように、闊達な笑顔で。




「ごめんな」




小さくつぶやき、ジアースの腕が振り下ろされた。グシャリ、というあっけない音のあとに、敵の核がつぶされる。同時に、丸井の足元にたたずんでいたプラカードを掲げていたひとびとも、それどころか建物も、海も、一瞬にして消え去る。まるで、世界に消しゴムが走ったかのようだった。まるではじめからすべてがなかったかのように、ジアースは暗やみの中に放りだされる。60億の命が今、無に帰されたのだ。
やがて、暗やみの中に、ぽつり、ぽつりと小さな光がともって、それはそのまま無数の星となり、暗やみは宇宙となった。その星のひとつひとつに命があるところが、丸井にはわかる。それはパイロットになったものだけが感じ取ることのできる、世界のありかをたどるすべ。


「ホームに戻ってきたな。とりあえず、今回の戦闘は終了だ。人殺し記念おめでとう丸井。その甲斐あって、この光ひとつひとつがてめえらの地球の属する宇宙で、その中に存在している無数の命が守られた。なにも悔いるこっちゃねえよ」


丸井は黙って操縦席から立ち上がり、ケタケタと笑うチェシャ猫の横を黙ってゆきすぎ、椅子の背もたれに走った派手な引っかき傷を一瞥した。指先でそれを撫でて、それから、自分の挙動を息をつめて見つめる5人の仲間たちに向かって、明るく笑う。それはジャッカルの死以来はじめて仲間たちが見る、「いつもの」丸井の笑顔だった。おそれを知らず、誇り高く、自信に満ち溢れ、つぎつぎと妙技を生み出す、明朗で闊達な、あの。

「…丸井せんぱ、」
「なーに泣きそうになってんだ、バカ也。発破かけたのお前のくせして」
「…俺はっ、」
「わーかってるよ。サンキュ」

悔しげに唇をかみしめる赤也の髪を乱暴に撫でまわしてから5人をぐるりと見渡し、丸井は苦笑して小さく頬を掻いた。単純に、しめっぽいのが苦手な彼らしい、きまりわるげなしぐさだった。「なんつーか、あんま上手いこと言えないけどさあ」、と、言いにくそうにつぶやいてから、まいっか、適当で、と、丸井はあっけらかんと胸をはる。そして今再び、あの爽快な表情を浮かべて、彼は笑った。


















「ほんじゃ、行くわ。あと、シクヨロ」






























威勢のいい、茶目っけに満ちた明るい声と同時に、丸井の姿が消えた。同時に、赤也が声をあげて泣きだす。ぼくらの世界の夜明けまで、あと、5人。




(to be continued…)