せんべは、年の差が7つある幼なじみの設定です。跡部は原作どおり、跡部ッキンガム宮殿に住んでて容姿端麗才色兼備で強くて厳しくて優しくて、いろいろなことがいろいろぶっとんでるあの跡部。きよはお母さんが跡部の家の古株メイドさんをしていて、そのつながりでふたりは小さな頃から一緒に過ごしてきたというよくあるパターンです。今回のパラレルでは年の差はありますが、力関係は変わりません。デレデレのきよが表向き跡部にちょっかい出してばかりのように見えるんだけど、意外に内心できよに依ってるのはツンツンの跡部のほう。お屋敷ではなじみのない庶民派の楽しさと心地よさを教えてくれるきよのフレキシブルさと度量を、跡部は小さな頃から頼りにしていて、言葉や態度には出さないけど、とても大切にしている印象です。跡部に最初にテニスを教えたのも、当時山吹中の学生だったきよ、という設定。
でも跡部が本格的にテニスに傾倒し始めるきっかけを作ったのは、当時プロ入りを目指し、渡独して間もない手塚少年の底なしの強さだった、という皮肉が、ふたりの関係を徐々に変えていきます。跡部がテニスに目覚めていくと同時期に、きよは高校卒業を機にテニスを手離し、道楽でさえラケットを持たなくなります。せんべというカップリング、ひいてはきよという人物を語るにあたり、外せないのが「テニスで上を目指すことへの葛藤」。このパラレルではそんな葛藤にきよが押し負け、同じ葛藤を乗り越えようとしていく跡部の眩しさに惹かれると同時に耐え切れなくなり、疎遠になっていくという過程があります、モチ子の脳内で。(…)きよには、一度「手離そう」と決めたものには手段を選ばず、目的が達成されるまで根回しも徹底的に行いそうなイメージがあります。宮殿にも一切近付かず、跡部の呼び出しや誘いにも応じず、母親からも一切の自分への情報を断絶させるきよ。これに腹を立てる以前に、衝撃を受けたのが当の跡部です。跡部は察しがいいし聡い子なので、きよが抱えているジレンマや複雑な感情、その向こうにある自分への愛憎をもきちんと認識してはいるのだけれど、でも飲み込めるわけじゃないし、理解は出来ない。だって跡部はきよが好きなんだもの。盲目にだってなれるし、そもそもの7つの年の差は大きいのです。結局跡部は高校卒業と同時に手塚を追う形でプロ入りを目指し、渡独。跡部は日本を発つ前にせめてもういちどきよに会いたい、と留守番メッセージを残すのだけれど、きよは見送りには行きません。お互いに、捕まえたら、捕まったら最後だってわかっているから。跡部は最終便まできよを待って、結局「See you later」とだけ記した手紙を残して渡独します。受け取ったきよは、涙も流さずにからっぽの無表情でそれを読んで、タバコの火で燃やす。
その後もきよは新聞やスポーツニュースでも意図的に跡部の姿を探すことを避け、そのまま2年の歳月が経ちます。きよのだめなところで難儀なところは、そうと決めた自分、迷いがある自分、全部並列に抱えて持って生きることの出来てしまう器用さ。テニスを捨て、跡部の気持ちに見ないふりをして、こっぴどくあの子を傷付け自分も傷付いたのに、なんとなくその日暮らしで生きていけてしまう、笑うことの出来てしまう彼の聡明さが憎い。その年の夏、手塚がプロトーナメントで優勝し、彼が帰国するのにあわせて帰国予定だった跡部の乗った飛行機が墜落。跡部は死にます。

きよが訃報を受けたのと同時のタイミングで大阪で「黄泉がえり」現象が起こり始め、きよは荷物も何も持たず、ただタバコを1箱だけ持って大阪へ向かいます。いくつもの電車を乗り継いで、わざと遠回りするみたいに、でも行く。3週間が経つギリギリ一歩手前の日に。黄泉がえった跡部は、たぶん昔と変わらずにちょっと不遜な無表情で現れ、佇み、きよを見て何もかもを悟り、少し低くなった大人の声で、「よぉ、久しぶり」って言うんだと思います。きよは笑おうとして笑えなくて、俯いて、「……俺はさぁ。ずるいわけですよ、跡部くん」って口火を切る。長い長い、独白と告白を始める。そしてきよの自己中心的でずるくて勝手な理屈を、でもぼろぼろで繊細で傷付きまくっている本心を、跡部は表情ひとつ変えずに聞いてくれます。
……こっから先はあんまり考えていないんですが(えええええええええええええええ)(いやせんべ初心者なんで!!!)たぶんすっごく長くて理解に苦しむきよの告白を、跡部は全部黙って聞いたあと、「それで俺様を散々待たせた言い訳は終わりか?ご苦労なこった」って鼻で笑い、「そんじゃ、いい加減俺にも言わせろよ。俺様は気が長い方じゃねえし、元来時間が圧倒的にねえんだ。テメーの都合なんざどうでもいい。いいか、1回しか言わねえからよく聞けよ千石。―――お前が好きだ」って、静かに断言するんだと思います。そして自分よりずっと年上のくせに、自分よりずっとたよりない、迷子の子供のような表情で顔を上げたきよの目を見て、「今までもずっと、これからも多分な」、ってつけくわえる。これからがないとは、彼は絶対に言わないよ。自分自身のために。そして、他ならない千石のために。そして跡部はテニスコートの中の彼のように苛烈に笑い、「See you later!」と宣言し、夜の中に消えます。キヨはくしゃっと笑い、跡部が死んでからずっと止まっていた時間を再び刻むように泣きながら、「シーユーレイター」って誰もいない夜につぶやきます。「じゃあな」という意味のほかに、「いってきます」「いってらっしゃい」の意味がある言葉。果たしてどちらがどちらの出発を見送り、どちらがどちらの帰りを待つのか?その答えは、ふたりだけが知っています。



あとがき


「Run,Boys,Run.」のせんりちゃんにささげたもの。せんべが好きなんです!